「心理学概論I 2013」の感想 (18 Apr, 2013)

学生から提出してもらった「出席カード」(大きい方) に書かれていた感想・質問・苦情から。

マーガレット・ミードの「サモアの青春」が嘘だったことは、初めて知りました。高校のときに、嘘なんて言われていなかったので、普通に信じていました。だから、本当にビックリでした。それと、スペンサーの「適者生存」が間違いだったのも初めて知りました。それも、高校の倫理で普通に習い、普通に信じていたので、本当に驚きでした。

大学に来てよかったよね!

先生のお話をきいて、私が今まで考えていた”進化”と先生が言われる”進化”が異なっていたことに気付きました。

それはとてもよかった。日常的に用いられるのと同じ言葉を使った専門用語というのは、こういう怖さがあるんだよね。

そもそも「女性らしさ」や「男性らしさ」というものは、どのような判断基準によって定義されるのでしょうか。

多くの社会で大多数の女性/男性が採っている行動によって、「女性らしさ」や「男性らしさ」を記述的に定義するしかないだろうね。

先生はパワーポイントを使って授業をされていますが、先生はどうしてパワーポイントの内容を印刷したプリントを授業前にくばる、ということをしないのですか?

そもそも「パワーポイント」は使っていない。いろいろな理由があるが「授業ぎりぎりまで内容を変更するかもしれないから、印刷しない」「印刷すると紙がもったいない。Moodleで十分」「印刷をして資料を持ってくるのが面倒くさい (しかも休んだ学生の対応も考えないといけない」というような複合的な理由から、結局Moodleで事後に配布するということにしています。今時は電話機でも見られるのだから、そのほうがいいでしょ?

「男女の差は生得的か?」について。半陰陽の人は、どうなるのでしょうか?

突然変異で説明できないのかなあ? よく分からない。ゲイやレズビアンについてはもちろん進化上の謎だけど、たとえばゲイになるような遺伝子を女性が持っていた場合にはむしろ適応を助けるという話は聞いたことがある。

これから文明の発達にともない人間は進化や退化をすると思いますか?

進化は子どもの数に差がなければ起こらないので、子どもの数の差が少ない現在のような状況が続けば進化スピードは低下すると思う。

性格、人格形成においては遺伝より環境が大きくかかわっていると思う。

なぜそう思うか、ということを考えてみて。なぜ、身体については遺伝の影響が大きくて、「性格」や「人格」はそうではないと思うのか? 人間の「心」は魂のようなものだと思うから、そういう考えに至るのでは。

先生はデートをするときになにか心がけていたことはありますか?

何を心がけたらいいか分からないので、心理学の道に進んでしまったのだと思う。マジレスすると、うまいものを食うに限る。

子育てなど、男女の遺伝的な違いがあるのはわかりますが、それを「差」という上下の区別を、優劣を決めるようなニュアンスを含む言葉で表すのは、私は嫌だなと思います。

その感想はとてもよく分かる。でも、「嫌だな」と思うのは「女性の方が男性より下に見られている」と思うからだよね。「差」という場合、もちろん男性が女性よりも得意な領域もあるが、逆もある。両性がなければヒトは子孫を残せない生物であって、どちらかが一方的に優れているという考え方は生物学的にもあり得ない。例えば空間認知は男性が優れているとされる一方、記憶力は女性の方が優れているとか、そういうこともあるので、優劣を決められるような問題ではないのだ。また、一般的な「差」に基づいて男女の役割を政治的に決めるようなことがあっては決してならない。

今日は書くことがいっぱいあったのですごく疲れました。

すみません、進度調整の失敗です。

元々の体のつくりから男女の役割が決まっていたと思うのですが

大きな配偶子を作る性のことをメス、小さな配偶子を作る性のことをオスと生物学では定義する。大きな配偶子 (=卵) を作るのは、小さな配偶子 (=精子) を作るよりもたいへんなので、そこからいろいろな差が出てきた。

日本人などの穀物類を主食として昔 (2000年程度?) から食べられていた。穀物類は消化する事が他の食物よりも時間がかかりやすい。そのため日本人などの穀物類を主食として食べてきた人類はアメリカなどの肉類などを主食としてきた人類よりも腸が長く、胴長短足になりやすい、という話を聞きました。

でも、そのくらいの違いは食習慣の変化で変わってくるよね。多分進化の問題ではないんじゃないかな。

インターネット上では (ミードと) デレク・フリーマンという人理学者との論争のことがのっていました。マーガレット・ミードの研究に対し、異をとなえたデレク・フリーマンが現在では「学問的詐欺」まで言われていて、彼が間違っているかのような扱いでした。

もし、ミードの説が正しいのだとすれば、ミードの説を裏付けるようなデータが出てくるはず。ミードを批判したフリーマンのやり方に問題があったということは、ミードの説が正しいことを保証しない。ミードの説が正しいかどうかは、彼女の主張したデータが何らかのやり方で支持される必要があって、「批判の仕方が間違っている」ということで、ミードの説が支持されるというのは、いかにも「政治的な批判」だと思う。

遊びで馬鹿をやったり、ギャグやボケをかますのは男性の方がが多く

これには壮大な仮説があって、芸術や学術、トークなどで男性でより積極的なのは女性にモテるためだと主張している進化心理学者がいる。これについては来年度開講予定の「進化と人間行動」で話す予定。

ある人の子どもに、それまで人間になかったような遺伝子が急に現れたというのは、これは進化なのでしょうか?

突然変異は常に起こっていて、それだけではもちろん「進化」とは言わない。それが継承されるような環境要因があって、そうした遺伝子が増えていくことを「進化」と言う。

ミードの話が嘘であり、文化が全てでないのなら、ボアズらが述べている文化人類学も正しくないのですか。

もちろん。文化が全てだという言説が誤っていることは、これまでの進化心理学や行動遺伝学の研究から明らか。

ミードの話は結局うそだったけど、ほんとにそうなのであろうか。全ての民族を調べあげたら、もしかしたら本当にあるのではないだろうか。

もちろん、その可能性はある。「ないこと」は証明できない。しかし、科学では「あること」を示されるまでは「ない」と仮定することになっている。あるならば、その証拠を示すことができるはずだし、「ある」と主張する側にその責任がある。

将来、心理学に関する仕事に就くためにはこれからどのような講義を受ければいいのでしょうか?

心理学に関する仕事にはたくさんあるのでなんとも言えないけれど、専門科目はできるだけたくさん履修するようにしてください。特定の科目を修めれば心理学の仕事に就けるというものではないので。

(比較実験について) たとえば化学なんかで同一の組成からなる物質を様々な薬品に漬けたりして様子を見たりしますよね? 氏と育ちとの例で言うと、生後すぐ親戚に預けられた子の未来の性格と、同じ子が孤児院に預けられた場合の未来の性格のように、一人の人間に対する特定の時点における状態を複数種類観測することはできませんよね。

(返信はいらないと書かれていたけれど重要なので返信します) 例えば、一卵性双生児 (遺伝的には全く同一個体) で異なる環境で育った人を比較するということができる。また、一卵性と二卵性 (同時に生まれたという点以外ではふつうのきょうだいといっしょ) を比較することで遺伝の影響の強さを知ることができる。行動遺伝学の本を読んでみることをお勧めする。おもしろいよ。

内戦が続いているスーダンや、ミサイル発射をちらつかせる北朝鮮などが世界的に「遅れている」という考え方は誤解であるというのが進化論という分野での解釈ですか?

進化論というのは、そういった国の優劣について何かを言える学問ではないということです。

先生は講義で他の学者はこういっているが実際はこうだ、という言い方をなさいますが、その学者たちの言い分はないがしろにされるべきですか?

そんなことはなくて、当然僕が主張することに対して否定的な学者もたくさん存在する。大学の授業というのは、そういうものであると思った方がいい。研究をするということは、まだ分からないことがあるということなのだから。授業で話された内容についてはきちんと疑ってかかることが大事で、教員が言ったからそれが絶対に正しい、なんて思い込むのは大学の講義の受け方としては間違えている。いろいろな論点があることを、様々な角度から学ぶというのが大学のよいところ。リアクションペイパーでも反論がたくさん寄せられていて、それについては、僕はとても頼もしいことだと思う。

いじめの無い環境を作ることは可能ですか?

いじめについては、『いじめの構造—-なぜ人が怪物になるのか』という社会学者の書いた本がとても面白かった。ここで書かれている解決法が現実的かどうかはともかくとして。