『心理学ワールド』46巻

『心理学ワールド』と言えば、日本心理学会に入会しているひとに、『心理学研究』とともに送られてくるちょっとゆるめの雑誌だ。今回の特集は「子育ての神話」だったが、ネタはそれではなく、東京医科歯科大学名誉教授で人間総合科学大学教授の藤田紘一郎氏によって寄稿された「免疫学からみた血液型と性格」という記事。

藤田氏は血液型と性格には関係があるという信念を持っているようだ。ABO式血液型によって免疫の強さが異なるから性格に差が出るのではないかとある。例えば、O型の人は免疫力が強く、結核や梅毒にかかりにくいそうで、そこから新しいものに果敢にチャレンジする性格になるという。

一見もっともらしいが、トンデモだ。それなら「肥満のひとは様々な病気のリスクがあるから慎重になる」とか、「タバコを吸う人は肺がんのリスクが高いから云々」とか、なんでも言えてしまうではないか。病気へのかかりやすさがそのひとの行動に影響を与えるというのはあり得そうなことだが、血液型だけが免疫の強さを決めるわけではあるまい。「他の条件が同じであれば」そういうこともあるかもしれないが (こうした論理は心理学者も実は多く使うが)、あまりに杜撰だ。それに、これまでの様々な調査で、血液型と性格の間に一貫した関係が得られていないというデータとの整合性はどうなるのだろう。

O型が積極的で、A型が慎重、などという「血液型人間学」の根拠は、そもそもこうした免疫学の知見から出たものではなく、いい加減な調査から出てきた「仮説」に過ぎない。「AB型は免疫力が最も弱いのです。なるべく外出は避け、人とも会わないで、自分自身でコツコツと勉強し、芸術肌を身につけるようになったのではないでしょうか」に至っては苦笑するよりない。なんだ、引きこもりは芸術家になりやすいのか……。

問題は、こんないい加減な主張を日本心理学会が出版している雑誌が堂々と2ページも割いて (何の注釈も断りもなく)、紹介しているという点だ。

さて、僕はそろそろ「鼻毛の長いひとは人付き合いが苦手」という主張でもしようかしら。鼻毛が伸びやすいひとは、(ひとと会う前に鼻毛のチェックをしないといけないので) 人前に出るのが億劫になり、社会的スキルを学ぶ機会が少ない。従って、鼻毛の長いひとは人付き合いが苦手になる。これも立派な「仮説」になる?