リアクションペイパーでの問答をやめた

現在担当している講義は前期に毎年「心理学概論」、後期に隔年「進化心理学」の2本で、以前は毎回授業終了時に感想を集めて質問等があった場合にこのブログで回答していた。それをやめた、という話。

このブログにはこれまで行なってきた相当の数の問答を蓄積してある。授業の最後に書いてもらったリアクションペイパーへの回答を、当初はブログに書き、授業前半部分で口頭で説明していた。そのうち時間がなくなってブログだけで回答するようになった。授業前半部分で口頭で回答していた時代には、それに30分もかけていたこともあった。それはそれで学生に知識を定着させる上で全く役に立たなかったわけではない。しかし、これでは効率が悪すぎる、ということに気づいた (気づくのが遅いかもしれない)。

ブログでの回答は2008年からやっているので、16年も続けていたことになる。一時期はかなり丁寧にやっていたこともあり、そこそこ学生の評判もよかった (でも、早く次の話を聞きたい、と言ってくる学生も一定数いた)。しかし、この後期からきっぱりやめた。質問が減ってきたからである。減ったきたのには理由がある。質問が出ないように教材を作り込んできたからだ。

これだけの年数、講義を行なって質問に答えていると、いつも同じことを聞かれることに気づく。それなら最初からそういう質問が出ないように授業を構成すればいいのである。先回りしてしまう。なぜこれに気づかなかったのか。授業冒頭の貴重な時間に回答の時間をとっていたのはとても無駄なことであった。これに気づくのに16年かかった。今この形式で授業をやっている先生はぜひこのことを考え直してほしい。

スライド (Keynote) を使った授業をやめたことも大きい。Wordで300ページ以上の教材 (=自作教科書) を作り、それをプロジェクターに写して喋る。スライドは情報量が少なく、トークに依存するが、これなら喋る内容が全部書いてあるので、後でも学生は勉強しやすい。質問も先回りしてつぶしやすい。

全部書いてあれば学生は寝てしまうのでは、という意見があるかもしれない。しかし、意外なことに、スライド時代より寝ない。担当者は決して授業がうまいわけではなく、むしろ下手だ。それでも、寝る学生の数はスライド時代より少なくなっている。授業後に行なっている小テスト (しかも、期末試験100%で評価するのでこれは成績に反映させない) の点数も十分高い。これによって、相当の知識を学生に詰め込むことに成功しつつある。

一方的な講義の重要な点は、いかに履修者に知識を与えることかという点にあり、とにかく詰め込む量が重要だ。「知識を与えるだけではいけない」という人は多いが、「与えるだけ」の「与える」部分をちゃんとやっている大学教員がどれだけいるのだろう。インプットなくしてアウトプットはないのである。スライドだけで授業をやるのをやめて、教材を書き込んで十分なインプットを与えることが重要である。