出張・研究・教育

一般入試が始まると何もできなくなるので、28日より3泊の予定で北大出張。雪の時期、入試の直前に北海道に行くというのは入試委員としてどうなのか (帰ってこられなかったら、責任とってもう1年入試委員やれと言われたら……)、という気もしたのだが、先日取ったデータの分析を北大の共同研究者として、論文にする戦略を立てなければならない、ということで強行。中2日は朝から夕方まで北大社会心理研究室でずっと分析。2日間にわたって完全に研究にどっぷり浸かるというのは、日常ではあり得ない。なんといっても出張中は、会議もない、学生もいない、たまにあるのはメイルだけ、なので、研究にとても集中できる。正直それほど研究にコミットした人間ではないと思っているのだが、こういう機会があるととても楽しく、時間を忘れてしまう。研究って結構好きだったんだよなあ、と思い出してしまう。帰りの飛行機の中でこんな記事を書く余裕があるというのもいいことだ (普段は授業のリアクションペイパーへの返信だけで燃え尽きている)。

土曜日、朝から分析していると、北大社会心理の学部2年生が数人やってきて実習か何かの発表の相談をしている。中の一人は帰国子女っぽい男子学生 (男子でも「子女」だよね?) で、外国人女子院生 (多分) とかなりネイティヴに近い発音で英語をしゃべりまくっているのを若干びびりながら聞き耳を立てる。2年生のミーティングの内容もとても高度。2年生なのに既にちゃんと重回帰分析を理解し、きちんと理論的な筋道を立てて議論をしている。使っている言葉も科学の言葉だ。少なくとも、既にうちの4年生 (で8単位の方の「卒業論文」を採っている学生) のレヴェルには達しているだろう。そもそもうちの学生は土曜日に大学に出てきたりするだろうか? 学生が大学にどのくらいの時間滞在しているかが重要と以前芦田先生がつぶやいていたが、これを見ると本当にそう思う。

入学時の状況が違うのだから、当然学生の仕上がりに差が出るのは分かるが、「偏差値が低いから仕方ない」で済ましていいはずはない。教育の目標はそれほど変わらないはずだし、うちだって博士後期課程を持っているのだ。入り口のレヴェルが違うだけではなく、国立大学の教育の質は私大より高いので (学生一人当たりの教員数が教育の質を測る最も妥当な基準だと思う。私大は圧倒的に教員数が足りない)、ますます差がついてしまう。僕自身は学部は北大を出ていないが、北大社会心理を出た学部生たちは十分社会で戦えるだけの専門性を身につけて出て行くだろう。修道大はもちろん北大よりも偏差値は低いが、地方帝大にいてもおかしくない優れた学生もちらほらいる。少なくとも、心理学専攻に進学してくる学生で、「話が通じない」学生はあまりいない (たまにいるが、そういう学生は高偏差値の大学にもいる)。そういう意味で、僕自身は修道大の学生はもっと誇りを持ってもいいと思うし、同時に「もっと何とかなるでしょう、あなたたちは決して馬鹿じゃないんだから」とも思う。現状のカリキュラムがそれほど悪いと思わないが、もう少し何とかできないものだろうか。教員数を増やすのは簡単ではないが (幸い来年度から1人増えるけれど)、カリキュラムの改善でできることは何かないだろうか。

多分、大学院進学率が極めて低いのは、進学を考えるだけ十分な教育が学部生に対して行われていない、ということもあるのだろう。進学を考える学生は、ほとんどが「臨床心理士」を目指して他大学大学院に出て行く。心理学のおもしろさはもちろん臨床だけではないし、臨床心理士の道に進まなくても臨床現場で活躍することはできる、というのは修道大の院を修了した院生たちを見れば分かるのだが……。進学を選択肢に入れている学生には、ぜひそのことをよく考えてほしいと思うし、研究の面白さを少しでも伝えられるように努力していきたいと思う。教育についても考えさせられた出張だった。